新しい生活様式と姿勢の問題

インターネットの普及によりパソコンが身近なものとなってから約四半世紀、パソコン等のデジタル機器を使う時間が増え続け、わたしたちの生活スタイルは大きく様変わりしました。それに伴って、わたしたちの身体にも目立った変化があらわれてきました。それは頭部前方位姿勢と呼ばれるもので、頭が体より前にいき、顎が突き出て肩が前方に丸まったような姿勢です。パソコンやテレビゲーム機等の普及に加え、スマートフォンの出現によって、誰もがどこでもこうしたデジタル機器を使うようになったことがその原因と考えられています。そのため、英語ではこの姿勢のことを、こうしたデジタル機器の使用に関連付けて、Text Neck(テキスト首)とかiHunch (hunchはせむしの意) などと呼ばれています。日本でもスマホ首なんて言うようになってきました。

また最近では、新型コロナの影響でデスクワークや在宅の仕事が増えて、パソコンやスマホに接する時間が益々増えたという人もいるのではないでしょうか。新型コロナの時代とともに、このままわたしたちの生活様式が変わってしまうのならば、頭部前方位姿勢がわたしたちに及ぼす問題もより顕著なものとなっていくかもしれません。

頭が前だと何が悪い?

頭が前に突き出た姿勢は、見た目が美しくないのはもちろんですが、それ以外にも様々な症状を身体に引き起こす可能性があります。

スマホや携帯ゲーム機の操作に特徴的な頭を前に傾けた姿勢は、首にかなりの負荷がかかります。頭の重さはだいたい5~6kgですが、頭を前に倒すほどに首にかかる負担は劇的に増加します。研究によると、頭を前方に15°倒すと約12kg、30°倒すと約18kg、45°で約22kg、60°で約22kgの負荷が頚椎にかかるそうです。頭部前方位姿勢の場合、これだけの重さを毎日長時間ずっと支え続けれなければならなくなります。

この姿勢が常態化してしまうと、頭痛、肩・首こり、腰痛、顎関節症、口呼吸、めまい、疲れ、うつ症状等々、全身に色々な問題を引き起こす要因となりうるといわれています。どうしてそんなに色んな症状に関係するかといえば、「身体は全てつながっているから」なのですが、もう少し詳しく説明しましょう。

構造的影響

頭が前へ行くと、背中が丸くなり、胸椎の可動性が低下します。さらに腹筋や骨盤底筋の働きも弱まることになります。

頭が前方の位置にあり続ければ、頚椎に負荷がかかって椎間板が圧迫され、ヘルニアを引き起こすかもしれませんし、さらに周囲の神経や血管も圧迫されれば、腕のしびれなどが起こるかもしれません。

胸椎の可動性が低下すると、肋骨の動きも悪くなり呼吸がしづらくなります。呼吸をして身体に入った酸素は、細胞に運ばれてエネルギーを作り出すのに必要なので、十分な酸素を取り込めなければ、身体はエネルギー不足に陥ってしまいます。

また、腹筋や骨盤底筋の働きも弱まって、例えば腰痛や尿失禁などのトラブルもつながる可能性もあります。

神経への影響

首には、固有受容器という身体の動きや位置を検知するセンサーがたくさんついています。そのセンサーは、耳の奥にある前庭器官と密接に関わりながら頭を水平に保ち、身体のバランスを保つために働きます。頭が前方にいった状態が続けば、首のセンサーから異常な信号が脳へ送られ続けることになり、身体のバランスに問題が生じたり、めまい等の症状も引き起こす恐れがあります。

また、頭部前方位姿勢は、交感神経の活動も高めてしまいます。交感神経は、身体のアクセルの役割をしていて、身体の活動性が高めますが、交感神経の過緊張状態が続けば、痛みなどの刺激に過敏になったり、自律神経失調症になったり、疲弊してうつ症状のような心の問題につながる場合もあります。

精神的影響

姿勢と精神状態のつながりは、皆さん感覚的に理解していることと思います。例えば、自信に満ちあれた人とそうでない人の姿を思い浮かべてみてください。簡単にイメージできることでしょう。わたしたちの精神状態はそれほど明白に姿勢に影響するのです。そして、逆にわたしたちの姿勢もまた精神状態に影響を与えます。

スヌーピーでおなじみ「ピーナッツ」の1960年の作品の中で、チャーリー・ブラウンは、頭を前に倒した姿勢は気分が落ち込み、頭を上げて背筋を真っ直ぐにすると気分が良くなることを理解していたようです。

あなたが頭を前に倒した姿勢を続けていると、それは脳にネガティブな情報としてフィードバックされます。それをポジティブなものに変えるためには、漫画のオチでチャーリー・ブラウンがやったこととは反対に、頭をあげて姿勢を良くする必要があります。

ピーナッツ チャールズ・M・シュルツ 1960年10月の作品
ピーナッツ by チャールズ・M・シュルツ1960年10月の作品

守屋カイロ・オフィス奈良による私家訳です。(上段左から右へ)

    1. これがボクの「落ち込んだ姿勢」だよ。
    2. 落ち込んだときは、立ち方で大きな違いがでるんだ・・・
    3. 最悪なのは頭を高くあげて真っ直ぐに立つことさ。だって、そうしたら気分が良くなってくるからね。
    4. 落ち込んだことから何か喜びを得たかったら、まずこうやって立たなきゃね・・・

このコロナ禍の今は、日常的にストレスや苦痛を感じることも多いことでしょう。そんな時には、意識的に頭を上げて良い姿勢にしてみましょう。それが、あなたをより元気で前向きな気持ちにしてくれるかもしれません。姿勢そのものが、ポジティブな感情を生み出す可能性があるということを忘れないでください。

あなたの姿勢は大丈夫?

このように頭部前方位姿勢は、単に見た目が良くないだけでなく、わたしたちの心身に悪い影響を及ぼす可能性があります。日常生活の中で姿勢に気をつけたり、運動やカイロプラクティック・ケアを通じて、頭部前方位姿勢を防ぎましょう。