甘いものがやめられない。

先日来院した20代の男性。思い当たる節がないのに、首や肩がだるくてたまらないと言います。彼の体の状態をチェックすると、いくつか気になる点がありました。どうやら原因は、甘いものの食べ過ぎにあるようでした。

彼に尋ねると、案の定、甘いものが大好きで、ジュース類は毎日1リットル飲み、仕事中もお菓子が手放せないと言います。立派な甘いもの中毒です。

糖分の摂り過ぎは、痛みや疲労等、様々な体調不良の原因となりえます。糖分の摂り過ぎが良くないということは、誰もが知っています。ところが、実際に習慣になると、常に食べたいと思うようになり、そして中々やめられません。いったいどうしてなのでしょうか?

砂糖は麻薬

甘いものには中毒性があることが、多くの研究で明らかになっています。

オレゴン研究所のエリック・スタイス博士の研究では、ソフトドリンクやアイスクリーム、あるいはその他の甘いものが好きで、頻繁に食べる人達の脳がどのように振る舞うのか、fMRIで調べました。

そこで分かったのは、甘いものを食べた時、脳には麻薬を摂取した時と同じような活動が起こるということでした。甘いものが口に入ると、ドーパミンが放出されて、脳の快楽中枢が刺激されます。ところが、甘いものを食べれば食べるほど耐性がついて、脳が刺激されにくくなります。つまり、満足感を得るためには、より多く食べないといけなくなってしまうのです。糖は、コカインなどのドラッグと同じで、最も依存性のある物質のひとつと言えるのだそうです。

でも糖は大切

もっとも、このように糖に惹かれてしまうのは、当然のことなのかもしれません。生き物は、ブドウ糖を主なエネルギー源としています。私たちは、ブドウ糖がなければ生きていけません。はるか昔の私たちの先祖が狩猟採集生活をしていたころは、現代とは違って糖質を摂ることが容易ではなかったはずです。大切なエネルギー源である糖質を強く欲するのは、そんな時代から受け継がれてきた本能的なものなのでしょう。

私たちがお米や野菜・果物から摂った糖質(炭水化物)は、お腹に入って消化・分解・吸収されてブドウ糖となり、血液を通じて全身に行き渡ります。この血液の中のブドウ糖の濃度が血糖値ですが、常に一定の範囲内に保たれるように精密に調節されています。血糖値は、上がりすぎても下がり過ぎても身体に深刻なダメージを与えます。それを調節するのが、膵臓や副腎から出るホルモンです。食事をとると血糖値が上がります。すると膵臓からインスリンが出て、細胞がブドウ糖を利用できるように働きます。その結果、血糖値は下がります。血糖値が下がると、膵臓や副腎から出るホルモンが働いて、血糖値を上げます。血液中のブドウ糖を一定量に保つことで、細胞がエネルギーを使えるようにします。

問題は甘いものに囲まれた食生活

甘いものが体のエネルギーになるのなら、食べたいだけ食べても問題なさそうな気もしますが、糖分の摂り過ぎには気を付けなければなりません。

お米や野菜・果物などの食物に含まれる糖分は、消化、分解を経て体内にゆっくりと吸収されていきます。一方、お菓子やジュースなどの「甘いもの」に含まれる糖分は、砂糖や果糖などの精製されたものです。これらの精製された糖分は、お腹の中に入ったらすぐに吸収されてしまいます。それは血糖値の急上昇を引き起こします。

甘いものをやめられなくなるメカニズム

甘いものを摂って血糖値が急上昇すると、それをコントロールしようと膵臓や副腎がフル回転で働きます。毎日フル回転で働き続けたらどうなるでしょうか。やがて糖をエネルギーに変換する機能が上手く働かなくなってしまいます。その結果、身体は疲労してしまいます。身体が疲れると、意識的(あるいは無意識)にエネルギーである甘いものが欲しくなります。そして、甘いものを摂れば脳が喜びます。こうして悪循環が出来上がっていくのです。

悪循環を断ち切るには

特に理由もなく体が痛かったりだるかったり、なかなか疲れがとれず、ついつい甘いものを食べてしまう。これは、もしかしたら、糖分の摂り過ぎで悪循環に陥っているのかもしれません。甘いものを食べるのを控えて、悪循環を断ち切りましょう。甘いものを控えるときには、次の点に注意しましょう。

◎疲れた時には甘いものという考えを改める

砂糖は麻薬です。食べたらシャキッとします。血糖値も急上昇します。元気になるような気がしますが、それは一時のことで、またすぐに甘いものが欲しくなってしまいます。体に必要な糖分は、普通の食事をしていれば、すでに十分すぎるほど摂れているのです。

◎糖分は食物線維と一緒に摂る

普通の食事から摂る糖質には、食物線維が含まれています。食物線維は、お腹に長く留まるので満腹感を与えます。お菓子やジュースなどの甘いものには、これが欠けています。ついつい食べ過ぎる原因となります。

◎清涼飲料は飲まない

缶コーヒーや炭酸飲料、ジュース等には、かなりの量の糖分が入っています。清涼飲料は満腹になりにくく、ついたくさん飲んでしまいがちです。最近問題になってきていることに、清涼飲料や様々な加工食品によく使われる異性化糖があります。異性化糖の取り過ぎが、メタボリックシンドロームや種々の病気の原因となっている可能性が指摘されています。清涼飲料を飲むのは、最小限度に控えるべきでしょう。これについてはまた次の機会にお話しします。

◎無理はしない

余分な糖分を減らせば良いのですから、自己流で極端なダイエットをするのはやめましょう。また、甘いもの依存になっている人は、禁断症状が出るかもしれません。やめるのが辛い場合は、無理せず徐々に減らしていきましょう。

参考文献

CBC News. 60 Minutes. “Is Sugar Toxic
Mercola.com. “Shocking Sugar Content of Common Food Products